東京バーベキュー ~歩くひと、佇むひと~

 
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1.昭和07年(1932)
TITLE
「次回のまちあるきは、堀切&東堀切らしいね」
「うん。で、一応云っておくけど、堀切編と東堀切編は別枠扱いだからね。あくまでも、1回のまちあるきで歩くのは1つの町だけっていう決め事だから」
「堀切と東堀切は何がどう違うんだい?」
「さあ...、その辺含めてお楽しみってことでヨロシク」
「というわけで、今回は、堀切と東堀切の違いを意識しつつ地図を眺めてみることにしようと思うんだけど」
「ああ、それでいいよ」
「おまえの頭の中では、二つの町の違いってどう捉えられてるの?」
「違いがどのって云われてもなぁ。そもそも町名なんて意識したことないから違いもへったくれもないな。ただ漠然と堀切&東堀切って町があるらしいって、そのくらいのもん」
「すでに一度、歩いてるって聞いたんだけど?」
「ああ、下見を兼ねてちょこっと。でさ、これがなかなか凄かったんだよ。何かさ、地中海のイスラム国家の旧市街地みたいでさ」
「なんじゃそれ?」
「大雑把に云うと、堀切菖蒲園駅から堀切小学校の辺りを抜けて堀切菖蒲園まで歩いてみたんだけど、もうさ、全ての道がグニャグニャとうねってて、あるのは緩やかなカーブと急なカーブだけ、真直ぐな道なんて一つもないのよ。広い道も狭い路地もみーんなそんなだから、すぐに方向感覚が無くなっちゃう。その日はさ、曇りがちの日で、影も落ちてないからそういうのを頼りにすることも出来なくてさ、そんなのが延々と続いてるようで凄い面白かった」
「地図は使わなかったのかい?」
「歩き始めてすぐに、絶対に地図見るまいって心に決めた。目の前に果てしない迷宮が続いてるんだぜ。勿体無いじゃないか。」
「意味わかんないんだけど?」
「だってさ、今は果てしなく続く迷宮だけどさ、そのうち土地勘が出来ちゃうわけじゃないか。俺にとっても、いつしか迷宮で無くなっちゃうわけでさ、だから堀切が迷宮である間は、それを堪能しないと勿体無いだろ」
「わかったようでわからない説明だな、まあいいや。じゃあ、その肌で感じた迷宮ってのをとっかかりに地図、眺めてみようか」
「うん」
「まず、例によって昭和初期の堀切界隈から見てみよう」
「俺が歩いたのは京成の駅から堀切園までってことか。この頃から随分とごちゃごちゃした町並みだったんだな。つうか、たくさん人が住んでるわ、これ、今まで見た葛飾のどの町とも違う気がする」
「区画整理とか耕地整理とかやろうにも、住んでる人が多すぎてまとめようがなく出来なかっただろうね。それで、当時の町並みがそのまんま、現在に残ってしまったんじゃないかな」
「イスラム都市の旧市街地みたいだぁなんて妄想しながら歩いたんだけど、実際に、旧市街地だったわけか」
「おまえの云う旧市街地近辺は、村と町の中間的な感じがするね。一方、堀切橋から堀切中央通り沿いは、しっかりと町の風景になってるみたいだ」
「その辺りも、ちょこっとだけ歩いたんだけど、たしかにレトロな雰囲気があったよ。葛飾だと古い町並みはあっても、レトロでモダンって雰囲気はほとんどないんだけど、ここは違った。そういう意味では貴重な風景なのかな」
「左下の地図は昭和18年のものだけど、荒川放水路超えてバスが走ってたんだよ」
「菖蒲園観光の需要があったからかなぁ。でもさ、東京からバスがやってくる町っていうのは、葛飾の中でちょっと自慢だったんじゃないかな。地元の人が云ってたんだけど、大通りだけじゃなく、さっきの『旧市街地』の中も含めて、何軒も映画館があったらしいんだ。当時だったら活動写真か。東京市内から都電に乗って川を超えて終点までいくと、そこは菖蒲が咲く町で、花を観て郊外気分を満喫して、活動写真観てから、洋食屋さんでビール飲む。ああ、なんかいいなぁ...」
「すぐ、お酒の話になっちゃうんだな、お前の場合は。でも、都市と郊外の接点というのが堀切という町のアイデンティティであった、という考え方はありの気がするな」
「堀切は都市の終点で、そこに郊外観光としての菖蒲がくっついていたんだ。都電、花菖蒲、活動写真って並べて、それが戦前の堀切なのだ!。なんだかすごいモダンな感じがしてきたわ。ところで、駅の北側はどうだっただろう?」
「そっちは歩いてみた?」
「いや、ほんの少しだけだから、よくわからない。でも地図見ると、北側は堀切町じゃなくて、下千葉町・上千葉町なんだよな。この辺は古い寺が並んでるね」
「12世紀末創建ていったら、室町・鎌倉時代だもんな。随分と古い」
「それだけ古い時代から人が住んでたのかな」
「そうかもしれない」
「駅の南側、堀切町が都市の終端だとすると、こちら側は村落の始まりってイメージかな」
「細田の用水路沿いの新田集落、青戸の中川沿いの集落、二つの村落はすでに見たけど、ここはまた別のパターンに思える」
「堀切中央通りは普通に街道筋で、街道から古くからんの集落にアクセスするって感じかな」
「むしろ、こちらのパターンの方が一般的なように思うんだけど」
「だとしたら、なおさら、この道路の街道としての位置付けが問われてくるわけだ」
「どういうこと?」
「荒川放水路が出来ちゃってるから分かりにくいけど、昔はこの道、向島から続いてる道だったんだよ。両国辺りの江戸市街地から向島へ出て、鐘ヶ淵を抜けると、もう堀切に着いちゃう。その先は陸前濱街道だからね。実際、街道的な使われ方をされてた道なのかもしれない」
「そういう古い街道に、古い寺が並んでいたと?」
「鐘ヶ淵に多聞寺ってお寺があるんだけど、そこは957年創建なんていう伝承があるんだ。で、多聞寺から古い綾瀬川の東側を北東に道が延びていて、この道が堀切中央通りなわけ。で、そこにも古いお寺が並んでる。向島っていうのは対岸の江戸から眺めると確かに『島』に見えたから向島。一方で、陸前濱街道を見てごらん。これも、古隅田川沿いの自然堤防の微高地をつたうように道が出来てる。これも見方によっちゃ『島』だわな。そうすると、堀切中央通りってのは、島と島をつたう、島から島へ渡るルートだったのかもしれない」
「でも、歩いてみた感じじゃ、微高地って感じではなかったけど」
「もしこの考えがあたっているとしても、ほんと数十cmの世界だろうね。雨が降ったらぬかるみの低湿地の中、辛うじて水はけが良い場所をつたって行けるとしたら、それは貴重なルートのはずなんだ。地図眺めてみると、『吉田家の楠』とか『郷倉』なんてのがあるけど、こういうのも、辛うじて微高地の傍証である気がする」
「ふーん。よくわかんないや」
「いや、だってさ、10世紀とか11世紀なんていうとんでもなく古い時代に創建された寺が一列に並んでるんだぜ。それなりの合理的な理由がなけりゃ、そんなことありえないじゃないか。そうそう、いい忘れてたけど、『堀切』の語源な。これ、『掘りを切る』で、どこに何のために掘りを切るかってのが話の要なんだけど知ってる?」
「いや。ただ、地元の人からもらった手書きの地図には、なんだか城塞がどうたらこうたらって書いてあった気がする」
「そう。城塞に古刹。そんな場所を貫通する道ってことで、だから、この道が古街道といっていいくらいの歴史的な存在であることは間違いないと思うんだよ」
「まあそうかもしれないけど、そこまで行くと郷土史の専門家さんの解説が聞きたいところだな。まちあるきで確かめるってのは無理な話だし、俺はモダンにビールでグビグビでいいや」

2.昭和22年(1947)
堀切、昭和22年
「話が長くなっちまったから、手早く行こう。昭和22年の地図、これはどう?」
「まかせておいてよ。えっと、これまで水田だったところが、格子状に整備されてる。それで、かつての集落がひとつにつながったように思える」
「それと、古街道ではないの?と考えてみた大通りは水路沿いの道だということが、この地図でわかるね。いや、もしかしたら、水路でなく元から川だったのかもしれないけど」
「この水路は今も残ってるよ。実際に歩いて確認できたからさ。これ、現地で眺めるとちょっと凄いんだぜ」
「地図全体の印象はどう?」
「うーん、全体がつながった分、とりとめが無くなった。もう、堀切だろうが下千葉だろうが意識して見なければ区別はつかないや」
「さっきの例えで云うと、都市の終点である堀切と、村落の始点である下千葉が一体化してひとつに見えるようになってしまった、ってことかな?」
「一体化したかどうかはわからないけど、まあ、道路的にはそうかな」
「旧市街地は?」
「格子状の空間に埋め込まれてしまった、そんなイメージかな。でもさ、周辺の格子と旧市街地の迷宮の違いは今でもわかるよ。歩いてみれば、それは一目瞭然だよ」
「なるほど。まあいいや。平和橋通りとか、いろいろツッコミ入れたい話題もあるけど、長くなったから、次、行ってみようか」

3.昭和35年(1960)
堀切、昭和35年
「昭和35年か、ここまで来ると今とほとんど変わらないのかな」
「堀切橋の付け替えはまだみたいだけどな」
「これ、もったないよな。橋のたもとまで商業地域で、そこは都電も走るような商店街だったんだよ。もったいない」
「最初の橋は大正13年にできた木橋だったんだよ。それが太平洋戦争で損傷しちゃったんで、取りあえずの橋をつくって代用してた。今の橋に架け替えられたのは昭和42年のことになる」
「簡易な構造だったのならしようがないけど、でもなあ...」
「新旧2つの道路がどう変化してるか比べてみるのも面白いかもな」
「橋のその先、駅の南北にでっぱりが描いてあるんだけど、これ、駅広?。なんか無理筋だな。あんまり真面目に考えてなかったのかな」
「たしかに取ってつけたような計画だよな」
「それとさ、橋を架け替えた辺りは小谷野町って呼ばれてたんだな」
「小谷野は古くからの村の名前だよ」
「なんかさあ、それも微妙だよな」
「なんで?」
「だってさあ、ここ、今は堀切なわけだろ。これからおいら達は『堀切』を歩くわけだから、当然、ここを歩いてもいいわけなんだ」
「そうだよ」
「でもさ、きっと、ここ、歩かないぜ。ちょっと端っこすぎるわ。普通に考えたら、駅の南側を堀切菖蒲園まで歩くか、駅の北側、かつて下千葉町だったところを歩くわけだよ」
「で?」
「小谷野町だって、その町名が現存してたら必ず歩くんだよ。でもさ、『堀切』ってことになっちゃったおかげで、無視されちゃう。実はさ、この前、少しだけ、ここ歩いたんだ。結構、面白いエリアだったんだけど、そういうの無視されちゃう運命にあるわけでなんだかなぁ、って思うのよ」
「しようがないさ。所詮、全てを見るわけにはいかないもの」
「下千葉だってそうだぜ。ここももしかしたら歩かないかもしれない。やっぱり堀切と云えば菖蒲園なわけでさ、北側まで行く余裕はないかもしれない。けど、隣の上千葉町は確実に歩くわけだ。なぜ歩くのかと云うと、そこは『堀切』ではなく『東堀切』だからなんだよ。たかだか、町名の違いに過ぎないわけでさ。地図で見る限り、駅の南側と駅の北側と、さらにその隣、今の東堀切は連続してるけど、やっぱり別の成り立ち方をしてるわけだよ。それは小谷野町にしてもそうなわけで。それを迷宮の旧市街『堀切』だけで代表させてしまうってのもなんだかなぁ。そう思わないかい?」
「難しいところだね。あと、所詮、何かを代表させてるなんて意識をもたないことが大切なんじゃないのかな」
「どういうこと?」
「『この町は○○です!』って発想は捨ててしまって、『ある町の一つの断面を切り取ってみました』くらいの気持ちでいいんじゃないかってこと」
「でも、今回、おいらの動機は『葛飾の全ての町を歩く』なのよ。全てって宣言しておきながら、ただのひとつの断面でしかありませんってのもなぁ...」
「悩んでも解決しない問題だと思うけどねぇ」
「うーん...やっぱ...悩むなぁ...」
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Tag : 堀切 東堀切 
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