東京バーベキュー ~歩くひと、佇むひと~

 
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 泉麻人が生まれた町「下落合」と遊んだ町「東京」を語ったエッセー。第1章「僕のご近所地図」は子供時代、第3章「ああ青春の東京地図」は学生になって行動範囲が広がった頃の話、第2章は現在の「僕」が東京を散歩して今と昔の接点を語るというもの。収められた文章は1995年から2000年に書かれたもの。
 「下町」で生まれ育った人の本を読んだら、今度は「山の手」で同時代を送った人の本を読みたくなって、この本を選んだ。南伸坊が解説で『この本は、つまり同じ体験をした人にだけおもしろい、なつかしい本ではないのだ』と書いているけど、それに重ねて、自分は東西の郊外を比較してみるというふうに読んだせいで、二重に楽しく面白く読めた。うまく書けないが、違う時間と違う場所を通り過ぎて行った人の物語ではなかった。下町・山の手と言う前に「郊外」と呼ぶことで見えてくることがある、そんなことを改めて感じた。

原っぱの町

 東の郊外の子供は西の子供を「東京の子供」と捉えていたのに、西の郊外の子供は、「東の子供」のままだったのだな。これは面白いなと思った。ちなみに、泉麻人は1956(S31)年、東京の「西の郊外」である新宿区下落合(現、中落合)生まれである。以上、前ふり。

  子供の頃、『おそ松くん』が好きでよく見ていた。漫画でなくモノクロのテレビアニメの方で、これは1966~67年放送だというから、おいらが見たのは再 放送かもしれない。その『おそ松くん』には、土管広場が登場する。雑草が生えていて、一応形だけ有刺鉄線みたいなので囲われていて、上下水工事用だろう か、土管がごろりと置かれている。土管には変なおじさんが住みついていたりする。モノクロなのに夕日がとても赤くて、低い家並とのこぎり屋根の町工場と銭 湯の煙突が真っ赤なシルエットに浮かんでる。△○□のおでんを持ったチビ太は毎回苛められっ子で、だけど、たまに一致団結する。でも次の回には、またいつ もの苛められっ子に戻っている。それは自分の町が舞台なのだとずっと思っていた。

 セイタカアワダチソウもブタ クサもまだあまり見かけなかった時代の原っぱは、一応取ってつけたような鉄条網のしきりはされていたものの、どこかに必ず子どもが容易にくぐりぬけられる ほどの穴なんかが空けられていて、そこは草野球やカン蹴りをする格好の遊び場となっていた。(原っぱの景色)

  おいらの知ってる原っぱは、セイタカアワダチソウやブタクサといった外来種があっという間に席巻しかける頃の原っぱだ。そんなことを何故覚えているかとい うと、当時、セイタカアワダチソウのことをセイタカアダウチソウだと勘違いしていて、そのことで友達にバカにされた記憶が残ってるからだ。けれど、そのこ とを除けば、ああ何にも変わらないや、みんな同じだ、と思うのだ。

 土管原っぱだけじゃない。『仄暗い三和土の通路の所々に、裸電球など がぶら下がった、闇市マーケットの雰囲気』のスーパー、『そちら側に渡ると、木造の古びた平屋とか、壊れた井戸が晒された狭い砂利路地なんかが僅かばかり 残っていて』『"異界"的な気味の悪い場所』(「ブラックハンドの路地」)、『デパートとアドバルーンの風景』に『”ホンモノの東京”というか「都」』を 感じる話(アドバルーンが見える場所)、『独特の、謎めいた、気味の悪い印象』だから『鉄塔』下で好んで少年冒険ヒーローごっこをしたという話(魔の鉄塔 地帯)、『駄菓子屋の定番 梅ジャム』(ねーちゃんばーちゃんの店)、ちょっと小馬鹿にしたネーミングの付け方までみんなそっくりではないか。

  東京の都心でない場所なんて、下町も山の手もへったくれもない。『おそ松くん』の赤塚不二夫の仕事場は、泉麻人が遊んだ下落合の原っぱのすぐ近くにあった らしく、だから、そこから見える新宿区下落合の町の風景が絵になった。その絵を見て下町の少年はおいらの町だと思った。たぶん、日本全国の少年がおいらの 町だと思ったに違いないのである。みんな同じだ、だったらそれでよいではないか、という気がしてきた。

東の少年、西の少年

 『東京でも山手線の東側の方まで行くことは滅多になかった』泉少年が常磐線に乗って荒川を越える話。

  物心つく頃、山手線の電車は鮮やかなカナリヤイエローのボディーになっていたが、常磐線は鋲が剥き出しになった焦茶の古い車両で、木材に浸み込んだ重油の 匂いがツンと鼻を刺す。そして車内は、大きな籠をしょった野菜行商のおばさんたちでいっぱいだった。(常磐線とお化け煙突)

  お化け煙突については、東の少年だった秋本治もなぎら健壱も思い出を語っている。北野武もたぶんどこかに書いているのではないか。今となっては実感わかな いが、当時は東京中の少年の話題だったということだろうけど、ここでは、焦茶の常磐線に注目したい。というのは、案外、カラフルな電車の走る町が"東 京"、焦茶の電車が走る区間が"非東京"だったのではないか、そんな妄想が思い浮かんだからだ。

 葛飾区亀有出身の秋本治は『両さんと歩 く下町』巻末の山田洋次との対談で、『目黒区に住んでいた親戚のおばさんのことを、「東京のおばさん」と言っていましたからね(笑)』と言っている。ま た、別の箇所では『「上野に行くと必ずじゅらくで食べる」と足立区出身の北野武のラジオでの発言を引いている。どちらもお化け煙突が存在している頃の話 で、これは「東京は行く場所」であったというのが話の肝ではないか。泉麻人にとっても「東京は行く場所」であったのだけど、お化け煙突はもちろんのこと上 野も、正確に「東京の東」の話なのである。カラフルな電車から焦茶に乗り換える瞬間というのが、案外、東京と非東京を越境する瞬間だったのではないだろう か。

 風景とは、そのように効いてくものなのだ。

用意された空間などツマランよ

 おいらの東京まちあるきは、散策というよりも放浪とか徘徊と呼んだほうが似合ってる。よく他人からもそう言われる。たしかにその通りだと自分でも思う。

  小学校の四、五年生の頃だったか、意を決して、はじめて明治チーズの看板を乗り越えて、その先の練馬区の領域に入ったとき、一つ大人になったような意識を 覚えた。 こういう、隣町に入り込むときの恐怖、というのは、だれしも幼年時代に心あたりがあるのではないだろうか.....。(「ブラックハンド」の路 地)

 そう、どこか他の場所に入り込むときの恐怖なんだよな。

 子供のとき、チャリンコで 行けるところまで行ってみるというのが好きで、行くところまで行く。夕暮れの群青色の空の下、山吹色の窓の灯りがつくのを見て、突然、帰れなくなるのでは という恐怖が襲ってきて、半泣きで慌てて来た道を帰る。いまやってることは、その延長戦なのだ。それは、おいらだけのことじゃなく、普遍的な感覚なのでは ないかしらん。

 本当は自分の町というものだけがあるのであって、そこから遠くはなれていく道路や電車が延びていて、それがカナリヤイエ ローの電車や焦茶の電車だったりする。そして、下町や山の手や都会や郊外やなんてのは、その途中にある風景でしかないのだ。下町とか山の手とか言い出すと 訳が分からなくなる。『知らない場所』でいいんじゃないか。

 昔、子供たちに遊び場についてヒアリングしたことがあって、こっちは委託主 の空気を読んで、△△児童公園だとかの答えを期待してたのだけど、返ってきた回答は断トツで"Tsutaya"だった。確かに大人が子供のために用意され た空間なんてツマランのだよ。そんなものから遠ざかることが面白いのだ。△△児童公園などよりTsutayaを探検することのほうが、『知らない町へい く』に近道なのだ。そんなことを思った。



青春の東京地図 (ちくま文庫)
泉 麻人
ちくま文庫2007
【目次】
文庫版はしがき
1 僕のご近所地図
スガ屋と仁丹ガム/「ブラックハンド」の路地/アドバルーンが見える場所/魔の鉄塔地帯/原っぱの景色/四丁目の商店街/ねこじぞう探検/おとめ山の山ザル/ねーちゃんばーちゃんの店/耳鼻科のある町角
2 僕的東京案内
い い匂いのする赤い地下鉄/「牛乳屋さん」のあった時代/白金の秀吉御殿/常磐線とお化け煙突/散歩デビューの町 神保町/浅草のカチカチクラッカー/鬼子母神と水もれ甲介/船堀の棒茅場/十条 演芸場通り/渋谷の原景/霞町のカフェバー/代官山のベーカリー/東京釣り堀めぐり/小田急線の町/多摩の小さな旅
3 ああ青春の東京地図
渋 谷・公園通り1973/渋谷宮益坂・雀パイの鳴く裏路地/原宿デビュー、の頃/青山「パレピ」と「ユアーズ」の頃/青山一丁目の青き思い出/1973年の ロックショック・六本木/七十年代ディスコ地図の変遷・六本木/放課後の町・自由が丘/悶々と中野を歩いていた頃/池袋に「場末」が漂っていた頃/乾物の 匂いにまみれてジーンズを漁った頃・上野アメ横/ゴールデン街脇の都電軌道・新宿東口/ナンパと古レコード探しの頃・新宿西口/ホコ天でハンバーガーを 齧った頃・銀座/わが愛しき学生街・三田
4 なつかしの東京風景
住宅地図の旅/ありし日の「町内会地図」/家のなかの「秘境」
あとがき
初出一覧
解説-南伸坊
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