東京バーベキュー ~歩くひと、佇むひと~

 
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昭和22年、葛飾区鎌倉町
「それじゃぁ、次は昭和22年の地図を見てみよう」
「毎度お目にかかる例の地図だ。この地図が見やすくて一番好きだな」
「前回、鎌倉新田の中心部を囲む3つの神社について考えてみたんだけど、覚えてる?」
「水路の高低差が、鎮守さまの場所に絡んでるんじゃないかって話だったよな」
「そう。で、その前提として、3つの神社が集落の縁、それも小岩用水の反対側に並んでいたんだ」
「で、その神社を巡ってみるのもよいなぁと」
「3つの神社を巡るまちあるきね。そのルートは古い集落と水田の境界線に重なるんだけど、びっくりすることに旧村落当時の道がそのまま残ってるんだ。現在の地図でもちゃんと確かめられるよ」
「古都一周、ちょっとした歴史散歩ってことか。そういえば、昔、この辺に住んでた友だち意の家に遊びに行ったことあったな。今、思いだした」
「いつ頃の話?」
「もう何十年も前の話。ただ、なんとなく町の中に森がある、鎌倉って町の中にある森みたいなところだなとそんな印象が残ってる」
「古い樹木がたくさん残ってたとか?」
「いや、ほとんど覚えてない。具体的な場所も定かでないしさ」
「でも比喩としてまずまずの出来かもしれないね。こじんまりとした村落の道路が、そのまま残っているわけで、それはまさしく、町の中の森なのかもしれない」
「ところで本日のお題だけど、今日はその森の外側について」
「町はずれってこと?。集落の周りもさ、田圃のあぜ道がそのまんま道路になりましたって感じだよな。集落の中心から町のはずれまで数分、もうそこは一面の田んぼの世界、ってのが終戦直後の鎌倉ってことか。なんか、のどかな風景だ」
「はずれかどうかは知らないけど...。ほんとに『のどか』だったのかしらん?、それって安直な先入観なのかもしれないというお話。とりあえず、比較の為に昭和35年の地図を貼ってみようか」
昭和35年、葛飾区鎌倉町

●町の中心、町の周辺

「この頃になると、すっかり様変わりしてるわ。特に小岩用水の右岸、細田町と同じように四角形の直線的な街区になってる」
「小岩用水と細田町をつなぐ道路も、よく見ると、昔あった道を活かしてるんだけどね」
「まあ活かしてるといえば活かしてる。この道路は昔はこの道だったんだろなって、推測できるからさ。でも、なんか違う気がするわ」
「細田町の場合、ゼロから町を作り替えましたっていっていいくらいの大変化だったんだけど、鎌倉の場合、全ての道にどれも微妙に手が加えられてて、それで昔とは全く別のイメージになってるのかもしれないね。でも、それはあくまで地図を眺めただけの印象論でしかないよ」
「実際の町の風景はどうなんだろってことか?。小岩用水から途中、もう一本、用水路が分岐してるけど、その両岸なんて、すごい変わりようだけどな」
「まったくのニュータウンの風景なのか、鎌倉新田の風景の名残りが残ってるのかってことね。それは実際、歩いてみないと」
「対照的に、古くからの集落の中心部はそんなに変化してる様子はないな」
「すでに家が密集してて、手を加える余裕なんてなかったのかもしれない」
「ちょっといいか?」
「ん?」
「えっとさ、こういう話の流れだと、なんだか古くからのものが残ってるのが良くて、そうでない場所は悪いみたいなことになりかねないんだけど」
「そう思っていないと?」
「もちろん。実際、いろんな町を歩いてると、ちゃんと変化していく町がいろいろ面白いことが多いわけよ。そりゃ、どう変化するのかってのは大切ではあるんだけど、でも基本、葛飾の町って、『変化』が基調なんじゃねえのかって気がする。町全体は常にあらぬ方向に変化しててさ、だから、その中であまり変化しない場所もそれなりに面白く見える、みたいなことだと思うぞ」
「さきの森の話でいうと、変化しつづける町の中で、突然、変化の速度がゆっくりになる一角があって、そこを『森』と感じたのかもしれないね。そういう意味では、鎌倉は中心部の時間の流れはゆっくりなんだけど、周辺に行くほど変化が大きい」
「まあ、町のイメージってことになると、どうしたって風景が保守されてる場所に注目してしまうけど、おれ的には、ただただ変化してしてしまう風景の町にこそシンパシー感じてしまうな」
「よくわからないけど?」
「おれ、『変な風景が好きです!』ってよく人に説明するんだけど、これ、誤解されるんだよね。『変な』イコール『悪い、良くない』ってことじゃないのよ。『変』は『変化』の変。突然変化してしまったり、変化する予定が何かの拍子で変化を妨げられたり、変化自体に突然変異を強いられたりとかさ、そういうのが本当は味があるんだよ。だから、基本は変化なの」

●鎌倉の東の端、変化がつくった風景

「変化という意味では、鎌倉の町の東端は面白いんじゃないかな」
「昭和22年の地図では、川なのか用水路なのか、それがしっかりと流れてるな」
「最初に取り上げた3つの神社のうち、引っ越ししちゃった東神社はこの水の流れを守護してた」
「流れの周辺は、そんなに開発が進んでるようには見えないけどな。昭和35年の地図を見ても、道路は整ってないし。鎌倉町の中の片田舎って感じかな。あと、鎌倉小学校が出来てるわ」
「小学校って大きくまとまった敷地を必要とするからね。逆にいうと、それだけの土地がこの辺りにはまだ残っていたんだね」
「なるほど。で、それが変化の面白さとどういう関係が?」
「昭和22年の地図を、もう一度見てごらんよ。右下に小さく載せたやつね」
「これは小岩?、四角形だらけの町になってるわ」
「江戸川区側ではさ、戦前に耕地整理をやっていたのね。それで、総武線から京成線にかけて、辺り一面、こういう町が出来ていた。隣の新小岩駅も同じだよね。で、後の高度成長期を迎えると、こうした基盤整備が効をそうして、どんどん人が住み、商売も盛んになり、町が栄えていくんだ」
「鎌倉の風景とは大違いだ」
「でさ、さっき鎌倉の東端は『鎌倉町の中の片田舎』みたいなこといってたけど、それって、鎌倉中心の見方なのよ。別の目線、この場合、小岩中心の目線で鎌倉の東端を眺めると、まったく別の風景が立ち上がってくるよ」
「うーん...、駅前からずーっと整形の四角形の町が続いてて、新築の住宅やお店がどんどんできてる。その先はというと...、なぜだか突然、四角形の町が途切れてて、川だか用水路だからがっつり流れてたりする?」
「つまりさ、この一帯って、小岩の郊外開発の最先端、フロンティアな場所なのよ」
「整形な街区と直線の道路がここだけしょぼくなってて、『おいおい、どうなってんだよ!。道路くらい通しやがれ!』みたいな不満があっても不思議ではないわな。『江戸川区は綺麗に町つくってるのに、葛飾区は何へたれてるんだよ!』みたいなさ」
「だよね。実際、そうだったんじゃないかな。でも、葛飾区鎌倉側から見ると、旧集落辺りにはたくさん人が住んでて、だから、大規模な耕地整理やる理由も余裕もない。それでも、開発圧力は高まっていく。そんな状況で、とにかく急ごしらえで、インフラ整備に着手したってのが、昭和35年の鎌倉東端なんじゃないかな」
「急ごしらえ?」
「うん。新しい道路をつくろうとすると用地買収にお金がかかる。それでも意地でも道路通せ!てことになると、都市計画的には相当アクロバティクなこと、やらざるを得ない」
「例えばどんな?」
「最低限のものしか手をつけないとか。例えば、道路の碁盤目具合に手を抜いちゃうとか、道路の幅を端折っちゃうとか、極端にいうと区の公共事業じゃなく民間デベロッパーの開発に委ねちゃうとか。あくまで例えだけどね」
「けしからん話だな!」
「でもさ、そういう切羽詰まった事情があったりすると、いろいろ変わった、それこそおまえがいうところの『変な風景』が出現してる可能性大なわけで、だから行ってみる価値あるんじゃないかと思うよ」
「他にも、北総線とかもあるけどね。それは古い地図ではわからないから、今回取りあげなかったけど」
「なるほど。とりあえず、鎌倉の『変』は、1に旧集落の道路&用水路と3つの神社、2に細田町との境界付近のとりとめなさげな変容、3に鎌倉東端のアクロバティックな風景、ってことでいいかな」
「変は変化の変ってことでよろしく!」
「じゃ!。報告を楽しみにしててよ」
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