東京バーベキュー ~歩くひと、佇むひと~

 
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23
 
奥戸、大正6年
「さて、次回は奥戸だよ」
「まだ鎌倉のまとめも...」
「前も云ったけど、1年で全30町を歩くんだからさ。時は待ってくれないのよ」
「わかってるけどさ...、おれ的には前回の経験を活かしつつ歩きたいんだよ」
「じゃ、今日はこれまでのまちあるきを振り返りつつ、奥戸の地図を眺めて何を思うかってお題でいこう!。ちょうど、地図に鎌倉も載ってるし、丁度いいんじゃないの」
「ああ、それでいいよ。おれ的にも、『地図を読む』の反省会が必要と思ってたし」

●まちあるきは町の全体像に迫れるか?

「で、どうだった?。鎌倉の経験を踏まえて、奥戸の地図を見ると?」
「鎌倉まちあるきはとても面白かった。町の人とたくさんしゃべれたしさ、ちゃんと歩けた気がする。鎌倉ってこういう町ですよってのが、何となくわかりかけた気がするってかさ」
「そうなの?。たかだか一日歩いただけで、町がわかったなんて云うのはおこがましい、大変失礼なことだと、前に云ってなかったっけ?」
「うん。それは今でも思ってる。でもさ、わかりかけた気がするって思えないのは、やっぱり駄目なんだよ」
「珍しく断定した言い方だね」
「例えばさ、その町の呑み屋に入るとするじゃないか。で、隣に座った人と世間話なんかするわけ。当然、この町はどうですか?みたいな話題になるよな?」
「うん」
「鎌倉だと、鎌倉ってこんな感じですよね、ってことがしゃべれる気がする。でも、最初に歩いた細田とか青戸の場合は、しゃべれない気がするのよ」
「どういうこと?」
「いや、単純にさ、歩き回ってないから。どっちも、町のほんの一部分しか行ってないからさ。歩いてない、見てない風景を語るってのは、基本ヤバイだろって」
「鎌倉は歩けた?」
「あの日は本番のまちあるきで1時間半くらい歩いたの。でも、おれは早めに鎌倉に着くようにして、町をぐるぐる歩き回ったのよ。たぶん2周くらいしたんじゃないかな。それから、その町のお店で昼御飯食べて、煙草吸った。そしたら相席のおじさんが『兄ちゃん、珍しいの吸ってるね』って声かけてきてさ。おじさんと世間話して、町の話題も出て、店員さんとも世間話して、それから、またぐるぐる歩いた。それで、ようやく体が町に馴染んできたっていうかさ。おれの場合、そういうのが必要だな」
「馴染んだつもりになれるってのが?」
「そう。おこがましいのは承知の上で、『馴染んだつもり』まで自分が降りていって、そっからようやく、まちあるきが始まるって気がするんだ」
「細田や青戸は降りて行けてなかった?」
「それは単純に、歩いてないからね」
「所詮、外部の人間なんだし、そこまで入れ込む必要ないと思うんだけど?」
「いや、そこは違うな。例えばさ、この前のまちあるきで、鎌倉という町が好きになったと思うんだ。少なくとも、そういうふうに町の人に語れる。で、語れるっていうのはおれ自身の問題。けど、今のままでは、細田は語れない。語ること自体を躊躇してしまう。それもまたおれ自身の問題。2つの違いはなんだと思う?。誤解してほしくないんだけど、鎌倉が好きな町で、細田が取っ付き難いってことじゃないのよ。町の側の問題じゃない。おれの問題ってこと。細田はそこまで降りて行けてなかった。ただそれだけの違いなんだけど、その違いが決定的に大きい」
「おまえにしては珍しく哲学的な発言だなw。そういう経験から想像するに、奥戸についてはどう?」
「うん、これは難儀だって思ってる。なんせ、馬鹿でかい。地図で比べると一目瞭然だけど、鎌倉ってとても小さな区域なのよ。しかも、町の型がシンプルでわかりやすい。古くから集落だったこじんまりした区域があって、その周りを戦後に市街化した区域が囲んでる。2つの区域の境界は今でも体感することが出来る。でもさ、そういう鎌倉でさえ、体に馴染むのにたっぷり半日かかってるのよ。これが鎌倉なのかなぁって、小声で語れるところまで半日かかったってこと。奥戸って驚異的にでかいじゃない。町の型も、鎌倉の何十倍も複雑なのは地図見てもわかる。たぶん、鎌倉と同じことやろうとしたら、これ、一週間はかかるわ」
「なるほどね。奥戸の場合、全体像を感じて歩くというよりは、ピンポイントで考えながら歩くのかな?」
「どうだろ?。例えば、細田で最初に目に留まったのは、牛乳屋さんの配達用の搬出口だったんだ。ああいう歩きかたになるのかもな?って想像してたりする」
「おまえがさっき云ってた、『奥戸ってこうですよね!』って語れるところまで降りていくのは無理ってこと?」
「たぶん...。一度に歩けたフリをして誤魔化すより、もう一度行ってみようかって、そういうのが見つかるような歩きかたになるのかもしれない。細田の牛乳屋さんの搬出口を例に出したのは、あれがまさに、『また行ってみようか...』っていう町への入口になってるからなのよ」

●地図を読むことのメリット

「なるほどね。『地図を読む』シリーズについてはどうよ?。歩く上で役に立ってるのかな?」
「鎌倉に関してはドンピシャだった。コンパクトな古くからの市街地があって、その上で町全体にうっすらベールが掛かってるようなイメージを地図から受けてたんだけど、それは当ってた」
「具体的には、どんなところが?」
「最初に小岩用水脇でお店やってる人と話ししたんだ。昔、まだ水が流れてた頃の話が聞けて、臭いとカエルの鳴き声が印象に残ってるって。それから、土地の高低差の話になって、こっち側はあんまり水は出なかったけど、反対側は一面田んぼだったからさって話になって、で、例によって腰を屈めて地面を追うと、実際、今も微妙な斜面は残っててさ、小岩用水の東側が高くて、西側は低かった。用水路跡から西に向かって歩くと、下り坂になってたんだよ。用水路跡の方が西側より地面が高いわけで、おおやっぱりそうなのか!って我ながら驚いた。柴又街道も、環七みたいに強烈に町をぶったぎってるわけではないにしても、マイルドに町を分けてるってイメージしてたんだけど、これも当ってた。地元の人に聞いたら、小学校区の境界になってて、それが分かれてるイメージの理由の一つみたいなんだけどね。町の成り立ちと無関係にバサッと通してしまった直線道路って、確かに学校区とかの管理には都合がいいわけでさ、ああなるほど町を分けるってのは、こういうことなのかと妙に納得してしまった。それから何と云っても、古い集落と戦後市街化した区域の違いだな。これも地元の人に聞いてみたら、『向こうは家がびっしり建ってる』って言い方しててさ、向こうってのが新しめに市街化された一帯なのよ。おれは鎌倉ってやたら木が多い!ってのが先入観としてあったんだけど、それは旧市街地の記憶だったんだなとか、区境ってやっぱ断絶してて、だからこそ変な風景が続出して面白いんだとか、なんかそういうの全てがリンクしていくのを実感して、それって地図を読んでいったからなんだと、それは感じた」
「なんか、自画自賛だなw。それとさ、一気にまくしたてたけど、そういうのこそ、まちあるきの報告で書いたらどう?。最初の予想通りだったのか、どういうふうにズレてたのか、写真とか具体的な雰囲気がわかるようにしたらいいと思うよ。まあ、結論的には、まったく役に立たない訳でもないと、そういうことかな」
「おまえ、いま、さりげなく難儀なことをつぶやいたぞ。仮説と検証ってことだろ。おれの一番苦手な分野だわ。まあ確かに、やらないより、やったほうがいいわな。でもさ、これも鎌倉だからこそなんじゃないかと思うのよ。やっぱ、奥戸はとてつもなく大きく、なおかつ複雑だよ...」
「心配する前に、実際にやってみるとしようか」
「...、やるのか?...やっぱりやるんだ...なんだか、膨大なエントリになりそうな嫌な予感がするんだが...」

(つづく)
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